少しだけ先の、自分の姿にしてくれる存在

さっぱり、首のあたりがスースーする。5年ぶりにショートカットになった。
わたしがヘアサロンに行く目的は「かわいくしてくれる、個性を際立たせてくれる」ことだと思っていた。でも、それ以上に、わたしが求めているのは”次の自分の姿にしてくれる”ということなんだ、と気が付いた。
それは、昔イタリアで帽子を作ってもらった時、自分で選ぼうとしたものより、職人さんが選んでくれたものが、結局似合った・・・という経験と似ている。「君はこれが似合うよ」と自分自身も認識していない姿を見せてくれ、成長するうちにいつしかフィットしていく。
まるで彫刻みたい。原石の中に、今一番光ってるところを掘り出していくように、美容師さんは人を見つめている。その原石は、人が変化するたびに色も、影も光も、形も変わっていく。「いつも同じ人」と思わずに、よくよく観察して見極めながら、「今の、その人が光る姿」をハサミという道具で掘り出してゆく姿は、美しい。
美容師というタレント。たったひとりのサロンで体現されているもの
その店は、わたしが17歳のころからずっと通っていた大阪のサロン。京都の大学に進み、そのあとは高知に移ったため、頻繁にはいけない。だけど、やっぱりそのサロンが好きで、数年に一度は立ち寄る。
ここは男性の店主さんが、ひとりで運営されている。完全予約制のオーダーメイド感覚。コンクリートの打ちっぱなしの小さな空間に、シンプルなインテリア。DJもたまにしているくらい、音楽好き。わたしは高校生の頃から、密かに影響を受けていた気がする。
「お久しぶりですね。もう、ここもはじめて20周年になりましたよ。ぼくももう50ですよ!」とにこっと笑う店主さん。「みんな変わっていって、変わらないのは、この店だけですよー」ともおっしゃる。
長年飽きられないお店運営ができているというのは、すごい。このお店のパッケージとしての秀逸さと、店主さんのコミュニティ作りの上手さが理由になっている気がする。長年の熱心なリピーターも多く、誰かが抜ければ、誰かが自然と新規で入ってくる循環もある。なんで、これが保てるのか?カットしてもらいながら考えた。
20年新しさを保ちながら続くお店の4つのポイント
1、常に自分を刷新している
今日も、店主さんはかっこいい。いつも彼は自分なりのテーマを決めて、おしゃれをしている。何年かに一度は、ファッションも食事も運動もテーマを変えて、取り組んでいく。その姿を見るのも楽しいのだ。
どんな業種でも、技術やおしゃれさは必要だけれど、何より、店主自体がライブ感に溢れてることが重要だと思う。今現在、自分で取り組んでいることがあるか。テーマを持って、毎日生きてるか。変化しているか。それがお客さんの楽しみにもなる。
2、安心して任せられる理由
ちなみに、この数年彼は筋トレとアイドル観察(こっちは照れながら教えてくれた)にはまっているらしい。筋トレ道はなかなか奥深いみたいで、ジム通いのこと、トレーニング~食事について一通りお話を聞く。確かに以前よりも筋肉がきれいについて、引き締まられた印象。外遊びも多くて、ちょっと日焼けされ、ワイルドになってる。数年前はぽよっとしていて可愛い印象だったので「人って、こんなに雰囲気変わるんだなあー」と感じた。
アイドルのライブにもはまっているみたいで、なぜそれが楽しいのか?という話を聞く。誰かが好きというよりは、ハコ推しで、プロデュースのし方や、頑張って100%出し切ってる姿を見るのが面白いという。
筋トレとアイドルの話を聞きながら、コミュニティ運営について思いをはせる。「美容師さんも、ひとつのタレントなのかもしれない」と思う。いつも安心して任せられるのは、常に刷新されていっている姿に、信頼感を持てるからなんじゃないか?と。この人自身が体現されている人だから、きっとわたしも任せて大丈夫、みたいな。それはリーダーの条件なんだろう。
3、察知能力と提案能力
もうひとつ、店主さんは察知能力がものすごく高い。その人自身が言語化していない大切なポイントや、奥に眠っているものまでよく見ている。実際わたしはいつも「今こういう仕事をしていて、こんな印象になりたいなあと思っているので、おまかせします」と、抽象的な言葉でオーダーする。でも、すぐにわたしが何を求めているのかを、理解してくれる。
「じゃあ、今回は思い切ってショートはどうですか?TPOに合わせて5種類のアレンジができるようなカットにしますよ」と提案してくださり、少し躊躇したけれど、いつもわたしが思ったものを超えてくれるから大丈夫だろうと思え、お願いすることにした。
「なんか、大阪にいる時とも、京都にいる時とも、高知に行った最初のころとも、今は雰囲気が違いますよね。いつも楽しそうだけど、お仕事の内容も変化されていくにつれて、変化しているものがある」
今の服装、メイク、立場とかものごし、そこから感じ取ることがあるので、今のその人にふさわしい髪型を提案していくのが、自分の仕事だ。というようなことをおっしゃっていた。
「今のその人」を肌感覚で察知する能力。初めて会った人には、新鮮な目でみることができるのだけど、何度も会っている人ほど、注意深く観察することが必要だ。今・今・今と人は変化しているから。これがズレると、「なんか違うんだよな」という姿にしてしまうこととなる。
これは、わたしみたいに講座をする仕事や、子育て、恋人との関係性でも同じだと思う。「同じその人」と思わないで、その時、その時の「今のその人」と対話していくこと。「こういう人」と決めつけないで”長いプロセスを通して人を見守るまなざし”という意味でも、必要なことだと思う。
4、基本はしっかり、時々タブー
「基本をしっかりとおさえることは、とても大事。でも、カットに関する考えは常に変わっていきますね。常に、1年前の考え方とは全く違います」
どういうときに変わるんですか?と聞いたら、時々、これはタブーとされていることをあえてやってみると、新しい発見につながるんですよ、とおっしゃっていた。なるほどなあ。どこの業界でもそうかもしれない。基本はしっかり、時々タブーで変化を起こす。
最後の仕上げ。
「長年のリピーターの方ほど、緊張感持ってさせていただいてます」
オーナーさんがいつもよりゆっくりと、厳密に、前髪にハサミを入れていく。
息をふっと止めてしまう、緊張感で、そのライブのような時間は締めくくられた。
コミュニティのリーダーは、意外と静かで地味?
ヒビノケイコ@hibinokeiko
一歩先に進む時は誰だって怖い。「自分はそこまでできない。無理です」と思っていても「できると思うから言ってるんですよ」と半歩出させてくれる。そっと見極めて、次の姿にしてくれる。引っ張ろうとするのではなく、気がつけば支えて押し上げてくれる存在。地味だけど、それがリーダーなのかも。
2016/03/27 13:23:39
ショートにしてから、選ぶものまで変わってきた。
新しいスニーカーも口紅も買ってしまったし。
まるで「これが、これからのわたしだよ」という形に”まずはされてしまい、自然とそうなってゆく”みたい。
コミュニティのリーダーというと、カリスマでぎらぎら!みたいな印象があるかもしれないけれど、こうやって、静かに地味~に人を押し上げながら、自分でも常に体現している。そんな存在なのかもしれない、なんて思った美容室のひととき。
まとめ
・常にテーマを持って、自分を刷新すること
・イメージや思いを、体現していること
・今の相手を、ライブで察知して提案すること
・基本はしっかり、時々タブーで変化すること
・そして、形はシンプルに
この5つをおさえて、コミュニティなりお店なり、仕事なりを作っていきたいね。
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