◾️食卓の想像だけですでにおいしい

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高校生のときの愛読書は、故・女優でエッセイストでもあった沢村貞子さんの「わたしの献立日記」だった。一見なんの変哲もない、でも工夫され丁寧に作られる毎日の食卓。四季を通してのメニューのメモ、旦那さんとのやりとり、お仕事のことが空気感のある文章で描かれている。


その食卓を想像するだけでおいしい気持ちが掻き立てられるようで、この本は10回以上読み返したなあ。今思えばへんな女子高生だった(笑)
 

たしか、この本には「炊きたてのごはんは、少しずつスプーンですくうと、ふっくらとする」というようなシーンが出てくる。どんな味になるのかな?と想像するだけで、口の中にお米の甘さが広がるような気がした。


◾️料理がくれるリアルな感覚


実家は夫婦共働きだったので、わたしは子どもの時から、家事を手伝っていた。小学生の時の担当は、母が帰宅するまでにごはんを炊いておくことと、日曜日の朝ごはん作り。高校生になってからは、夏休みなどの長期休暇は晩御飯や掃除などを受け持った。


母は料理に厳しい人だったので、例えば煮物の食感が柔らかすぎたり、ネギやしょうがなどの薬味を入れ忘れていたり、段取りが悪かったりすると、怒られた。だけど、基本的にはおいしいおいしい、とみんなが食べてくれたので、嬉しかった。


手抜きの(うまくいえばシンプルな)料理から、手の込んだ料理まで。ふだんはバタバタしていて悠長にはできないけれど、たまーにゆっくり時間が取れた時、誰かお客さんが来る時に、台所に半日くらいこもって沢山の料理を作るのは楽しい。一つ一つの造形物を作ってゆく、創作の時間みたい。


いつもは、文章やイラストなどを書いているせいか、こういうリアルな実物が、コトコトぐつぐつ言いながら、いい香りを出して次々と出来てゆくのが気持ちいい。畑もそうなんだけど、植えたものが大きく育って、収穫できて、料理して、そして実際食べれる。その実態のある感覚がなんともいい。


しかも、料理の場合はみんなが喜んでくれる。子どもは特に身をいれて作ったものがわかるようで、沢山食べてくれる。そういうリアルな体感と、作る喜びと、人が喜んでくれるという反応、身になる感じがすばらしく好き。

◾️失恋したあとの、お味噌汁の味


そうそう。料理といえば、18歳の時に男の子にふられた朝、飲んだお味噌汁の味が忘れられない。ごはんを食べていたら、ぼろぼろ涙が出てきて、えんえん泣きながら食べた。でも、お味噌汁を飲んだら「今日も、おいしい」って感じられた。この世が終わるかと思うくらい悲しかったのに、今日もお味噌汁はおいしい。だから、わたしは大丈夫だ。そう思った。「人間って、思ってる以上に、強いもんなんだなー」と、涙をこぼしつつ笑った。

明日も明後日も、お味噌汁はおいしくて、今日まで世界は終わっていない。お味噌の味はおばあちゃんのものから、わたしのものへとアップデートされたけれど。


さて、今朝は、炊きたての新米を、沢村貞子さん方式でスプーンですくってみようかな。

ふっくら、あまい香りが台所に、広がるといいな。

わたしの献立日記 (中公文庫)
沢村 貞子
中央公論新社
2012-09-21


 
さあ今日も、ささやかなおそうざいを一生懸命こしらえましょう―女優業がどんなに忙しいときも台所に立ちつづけた著者が、日々の食卓の参考にとつけはじめた献立日記。その行間からは一本芯の通った生活ぶりがうかんでくる。工夫と知恵、こだわりにあふれた料理用虎の巻。




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