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この季節になると思い出す。
京都の下鴨あたりに住んでたとき、夏のちょっと暑い日は、鴨川まで出て夕涼みをしていた。鴨川べりを歩いていくとSちゃんの住んでいる長家があり、その壁にはトケイソウのつたがからまっていて、不思議な形の花が咲いていた。ふたりで鴨川を眺めつつ、夕方の変わっていく色の中でビールを飲んだり、Sちゃんの太鼓の音を聞きながら過ごしたりした。汗ばんでいたのが、すっと涼しくなる瞬間が気持ちよかった。


Sちゃんは同じ芸大で、一歳年上のテキスタイル専攻。音楽が大好きでジャンベ奏者でもあり、魅力的な女の子。彼女は近所に住んでいるにも関わらず、いつも会うときには小さなおみやげをくれるのが面白かった。出身地の名産のそば粉、小さなお菓子、一本のビール・・・とにかく何かしら。それは本当にちょこっとしたものだったので、気を使うことなく受け取ることができた。


「いつもありがとう」と言うと「ぜーんぜん、あげたかっただけから」って笑ってくれる。くったくがなく、相手にはな~んにもも求めていない心使いが、すてきだなあと思った。そんな彼女とは「一緒に何かやりたいね」となり、わたしが専攻していた陶芸で、彼女が欲しかった陶器の壷型ドラムを作ったり、謎のライブに出演したこともあった。小さなカフェでの展覧会を一緒にしたことも。そんな関係性が好きだった。

おみやげは物質だけではなくて、言葉も。

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京都の学生時代では、とてもお世話になっていた方がいた。講座なども開いている小さな出版社を運営されており、時々お手伝いさせていただいていた。彼女は、言葉のひとつひとつにすごく力のある方で「けいちゃんは、将来場をひらいてゆく人だから」と、場のつくり方や人との本質的な付き合い方などをとにかく教え込んで下さった。わたしが訪れた日は、必ず何かしら「持って帰られる言葉」をかけてくれた。


月に1~2回くらいは手紙を送ってくれ、そこには、わたしの参考になりそうな切抜きや、勉強したらいいことがつまっていた。そして、必ず一行くらいの言葉が添えられていた。「いつも、ありがとう」とか「あなたのこういうところが~だよ」とか。常に言葉に力があった。手間をかけて切り貼りされた封筒を見ていると「何かいいものを、その人に」と思う気持ちは、こういう風にも伝えられるんだなと感じた。


もうその方は亡くなってしまったので直接お返しはできないけれど、注いでもらった愛情を何かしらの形で世の中に返したいと思って生きている。

笑顔のおみやげ

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カフェをしていたとき、よくお客さんのお子さん達が庭で花を摘んできて「これあげる!」と言ってくれた。とっても嬉しかった。いつもは忙しかったけれどまれに時間があるときには、そのお花にミントを足してワックスペーパーでくるみ、リボンをつけて、小さな花束を持って帰ってもらうこともあった。「わ~、すてきなおみやげ!」と喜んでくれて、わたしとその子たち、両方とも嬉しかった。



カフェのお客様には、とってもすてきな常連の紳士もいた。ご家族でやってこられ、いつも入ってくるなりすばらしい満面の笑顔で「こんにちは~!」と笑ってくれる。光が店内に満ち溢れる勢いで、それだけでももう「ありがとうございます」と言いたいレベルだった。



いつも「~が良くなったね」など気がついたことを仰ってくださり、ひとつひとつの言葉も態度も、笑顔もとにかく接するだけで心が洗われ元気がでる。見事だった。なぜ彼がセレブなのか もわかる気がした。「ひとつひとつの動作で相手に与えられることがある」というのを体現している。


「生きていること自体がおみやげ」みたいな方であり、そんな風に接するからこそ周りもまた反応し、豊かな関係が紡がれていくのが分かった。

人に会うときは、何かしら相手のおみやげになるようなあり方を考えよう


今でも、相互関係がいい感じで築けていけてるなと思う人には、どこかに「おみやげ意識」があるなと思う。誰かに会うときは「何かいいものを、その人に持って帰ってもらえたら」そういう気持ちで会えたらいいな。それは、そんなに難しいことじゃないし、仰々しいことではない。物質じゃなくてもいい。


笑顔を向けるだけでも、ひと言だけでも、持ってくる空気でも、そこにいるだけでも・・・何かしら「相手のおみやげになるような在り方ができないかな?」と考えてみよう。その瞬間から生み出されるものがある。

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■著作エッセイ漫画
山カフェ日記~30代、移住8年。人生は自分でデザインする~
山カフェ日記~30代、移住8年。人生は自分でデザインする~ [コミック]










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