「観光家でコモンズ・デザイナーで社会実験者」という謎の肩書きを持つ陸奥賢(むつさとし)さん。
前々から陸奥さんがやっている謎のゲーム(当事者研究スゴロク(下の写真)、まわしよみ新聞など)や面白い観光活動(大阪モダン寺巡礼、大阪七墓巡り復活プロジェクトなど)が気になっていて、インタビューさせてくださいとお願いしたら「ほな、通天閣の下で、待ち合わせましょか?」ということに。
…というわけで、このインタビューはディープな新世界の串カツ屋さん「近江屋」で行われました。
観光家/コモンズ・デザイナー/社会実験者。陸奥賢(むつさとし)。1978年大阪生まれ。中卒。15歳から30歳まではフリーター、放送作家&リサーチャー、ライター&エディター、All About大阪ガイドなどを経験。2007年、堺を舞台にした観光プロジェクト案で地域活性化ビジネスプラン「SAKAI賞」を受賞。2008年10月に大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会「大阪あそ歩」のプロデューサーに就任。大阪あそ歩は大阪市内だけで300以上のまち歩きコースを有する「日本最大のまち歩きプロジェクト」となり、2012年9月にはコミュニティ・ツーリズム事業として日本初となる「観光庁長官表彰」を受賞。2013年1月に大阪あそ歩プロデューサーを辞任し、現在はフリーで活動中。應典院寺町倶楽部専門委員。NPO法人大阪府高齢者大学校まち歩きガイド科講師。「社会実験塾 逍遙舎」代表。NPOまちらぼ代表。
■観光家とは「意外の哲学の実践者」
ヒビノ:そもそも陸奥さんにとって観光ってなんですか?
陸奥:そうですね。「観」というのは人生観、哲学観、恋愛観、結婚観といった言葉があるように、その人にとっての「世界認識」やと思っていて。その固定化、硬直化された世界認識に、意外な角度から光を照射して「あれ?こんなんやったっけ?」「おや?ちょっとへんやな?」と認識を揺るがせる実践のことを観光というと提唱してます。そんなんいうてるのん、ぼくだけですけど(笑)
要するに観光ってのは物事の観方が変わる意外な体験のことで、どちらかというと哲学の分野に近いんやないか?と思ってるんですわ。大袈裟にいうと観光家ってのは「意外の哲学の実践者」やと。そういう考え方で観光を捉えているので、ぼくが観光プロジェクトをやると「無縁仏を供養する」とか「新聞を読む」とか「ブックマーカーを作る」とか「人生スゴロクで遊ぶ」とか、一見して「え?それって観光なんですか?」と思わることが多くて(笑) もちろん「まち歩き」(コミュニティ・ツーリズム)とか、わかりやすい観光プロジェクトもやってますけどね。
ヒビノ:確かにわかりづらいかも(笑)でも面白い。そういうのはどこかで勉強されたんですか?
陸奥:いやいや。ぼくは大学とかで観光学とか観光の勉強をしてきたって人間やないです。学歴はまったくない男でして(笑)中卒で長いあいだフリーターをでしたが22歳のときにひょんなことでテレビ業界に入って放送作家、リサーチャーみたいな仕事をしてました。でも電波で情報を流す仕事ってのは、いくら視聴率がとれても実感がなくて…テレビの視聴者ってどこにいて、どうやって放送を見て、どう感じているのかサッパリわからんやないですか。笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、まるで顔が見えない。それで「電波やのうて、もっと顔が見えるリアルな場で活動したい」と思っていた時に「観光がいけるんやないか?」と直観したんですわ。観光は人と人が出逢う場や機会を作るから顔が見えるやろうと。それで27歳の時に地元・堺を観光で盛り上げる企画書を書いたら、それがビジネスコンペで賞をとって。それがキッカケでいろんな観光関係者と知り合いになり、30歳のときに大阪市のコミュニティ・ツーリズム事業「大阪あそ歩」のプロデューサーをやることになりました。いろんな仕事をしてきて最終的に観光に可能性を見出した…という感じではあります。
ヒビノ:なるほど~。ある意味、大学行くより濃いですね。そうやって、実体験を通して感じられたことや様々な経験が、今の陸奥さんに繋がってるんですね。
■陸奥さん流の新しい観光の実例1「直観讀みブックマーカー」
実は私は大阪の某所で、陸奥さんの直観讀みブックマーカーを作るワークショップに参加したことがある。直観讀みブックマーカーとは陸奥さんが考案した「本遊び」。遊び方はとっても簡単。
<遊び方>
①先ずお題(例えば「恋愛ってなんですか?」とか「わたしの人生最後の言葉を教えてください」なんて質問)を決めてブックマーカーに書く。
②次にお題に対する答えを「教えてください」と本に念じて、目を閉じたままページを開いて指で示した文章をブックマーカーに書きだす。
↑陸奥さんが「衝撃をうけた」という直観讀みブックマーカーの一例「初代野球盤」
「あることに悩んでいて、そのぼくへのアドバイスってことで友人が『ゲームのデザイン』という本を直観讀みして作ったのがこれで。まったく意味不明すぎて衝撃でした。でもぼくの頭の中で、いくつも走馬灯のように、いろんな言葉や情景やイメージが思い浮かんで・・・忘れられない直観讀みブックマーカーのひとつですね(笑)」
ヒビノ:こうして聞くと、なんだか「ビブリオマンシー」(本占い)のようで、書店にいけば『恋に悩むあなたに贈る365のことば』といったような「ビブリオマンシー専用の本」なども売っていますが、陸奥さんは「直観讀みブックマーカーは、この世にある、ありとあらゆる本で作ります」という。その結果、なにが起こるか?というと、まったく意味不明な文章ばかりが出てくるわけですが・・・。
陸奥:いやいや。直観讀みブックマーカーは意味不明な文章ばっかり出るからええんです(笑)まったく偶然に出てきた意味不明な文章なわけですが、「教えてください!」と念じて出てきた言葉なんで人間ってのは不思議なもんで「この文章には、なにか意味があるのでは…?」と勝手に裏読みしたり、深読みしたりしはじめるんです。それが面白うてね。
ヒビノ:私が直観讀みブックマーカーで引き当てた言葉は「今からあなたの使命は変わる時期。あせらずに今は一旦休養して」というようなものだったんです。その時の自分にずっぽり当たっていたのでドキッとしました。サトラレか!みたいな(笑)
陸奥:別に直観讀みブックマーカーやぼくがヒビノさんの思考を読み取ったわけやないですよ。ヒビノさんが、意味不明な文章に自分で勝手に意味づけて「思い当たった」わけです。目を瞑って適当に選んだ文章に、自分の悩み事の答えが書かれているわけがないんですから(笑)
ヒビノ:また皆が直観讀みブックマーカー作りに使用しようと選んだ本が『鉄の加工の仕方』とか『パンの焼き方』とか『宗教の本』とか…いつもなら絶対、選ばないような本もいっぱい出てきて面白かったです。例えば『パンの焼き方』という本では、「発酵するまで、じっくり待ちましょう」という一文が出てきた人もいて。これって意外と深いかも!?なんて皆と笑っているうちに仲良くなってゆくんですよね。
陸奥:直観讀みブックマーカーがええのは「読んだことがない本」でもすぐにできることです。本を持ってきて、お題を決めて、目を瞑ってパッと指を指して文章を選ぶだけですから。「普段、まったく本を読まない」って人でも直観讀みブックマーカーで遊ぶことができる。じつはこれが画期的なんです(笑)それで本で直観讀みブックマーカー作りをして遊んでいるうちに、「この本おもろそうやな?」とか「読んでみようかな?」と思ってくれたらシメタもので。これは「本と人との新しい出逢い方」を楽しもうという遊びですから。
ヒビノ:「本は通読するもの」と思っていたら、「適当に直観で本を選んで指差した文章を読む=直観讀み」という「新しい本の読み方」を通じて、自分の読書観や世界観までゆらゆら~っと揺るがされてしまう…なんじゃこれ?
と思いましたね。これ作った人すごい!って。それでず~っとひっかかっていたんですよ。
陸奥:ありがとうございます(笑)
ヒビノ:それで、むつさん、ここからが本題なんですが、直観讀みブックマーカーみたいな世界観をゆさぶる装置(観光?ゲーム?)の設計ってどうやって作るんですか?
■意外なものは偶然の設計から産まれる
陸奥:うーん。そうやな…ぼくは古本屋が大好きで。10代からあっちこっちの古本屋にいってたんですが、地元・堺に「1冊100円コーナー」で「10冊、1000円分買うと1冊タダであげます」ってサービスをやってる古本屋さんがあったんですよ。そこでぼくは10冊は自分の読みたい本、欲しい本を買うんですが、最後の1冊を選ぶときはクルッと後ろを振り返って本棚を見ないようにして「これや!」って本を1冊とってそれを買うっていう遊びをやってたんですよ。どうせタダやし、なんでもええわと(笑)
ヒビノ:すごい遊びですね(笑)
陸奥:それで手にする本が『はじめてのマタニティ・ヨガ』やったりして。まったくぼくと何の関係もないんですが、これをなんとなくペラペラ読んでみると妙に面白かったり、不思議なことに、当時のぼくが考えていたことや知りたかったことの「答え」や「アドバイス」が載ってたりするんですよ。「あ!?これ、おれが悩んでたことのヒントになるぞ!」とか、そういう経験が何度もあって。
ヒビノ:『はじめてのマタニティ・ヨガ』で悩みが解決した。めちゃめちゃ意外ですね(笑)
陸奥:そうそう(笑)まぁ、セレンディピティ(偶察性)というやつです。要するに「自分が欲しいと思う本」とか「自分が選ぶ本」っていうのは、結局のところ、「自分の世界観」から一歩も外を出ないわけで。自分の世界を飛び越えた「意外なもの」と出逢おうと思うなら、それは自分が意識したことがない世界にアクセスしないといけない。それには「偶然」という方法論がええわけです。
ヒビノ:は~!自分の世界観から一歩出られるってことですか。そこから、目を閉じたまま、偶然に身を任せて、本の中の文章を選ぶ…という直観讀みブックマーカーが生まれてくるわけですね。
陸奥:観光で、いちばんオモロイのは「意外なもの」との出逢いなんです。NYにいって「あれがみたい」「これがみたい」とメトロポリタン美術館とかカーネギーホールとか自由の女神とか巡ってもええんですが、それは結局、観光ガイドブックに書かれとることの確認作業に過ぎないわけですよ。いちばん衝撃的な体験ってのは「いきなり地下鉄でプエルトリコ人に話しかけられてローリングスシ(回転寿司)のチケットをもらった」とかいう経験だったりするわけです。これ、ぼくの実際の体験なんですけどね(笑)
ヒビノ:あはは。そんな経験は計画して出来るもんじゃないし、観光ガイドブックには載ってませんよね(笑)
陸奥:そうなんです。でも「自分という存在を強烈に揺さぶるもの」ってのは、常にそういう「意外なもの」で。そうした「意外なもの」と、いかにして出逢うか?どういう出逢いの場や機会の設計をするか?ってことが、観光家の仕事の醍醐味なわけです。最近、いろんな都市で仕事をすることが増えてきてるんですが、ぼくはどこの都市にいくときも、一切、観光ガイドブックとか買いませんから。無計画で、適当に歩いて「なんやこれ?」ってものとの出逢いを大切しています。計画しない。古い言葉でいえば「逍遙」(無目的にぶらぶら歩く)っていうんですけどね。観光の醍醐味は逍遙でしか味わえません。
ヒビノ:何でもそうですけど、ガッチリ計画たてすぎてるとそのワクから出られなくなるのかもしれませんね。いつもの自分から一歩出て、予想外のことに身を任せてみる。旅って、そうやって世界観を広げるための機会なのかもしれません。わたしも、これからは観光ガイドブックとか買わずに、ムモクテキな街歩きを大事にしてみようかな。
陸奥:ぜひぜひ。観光ガイドブックを捨てて、まちに出よう(笑)
(取材、執筆協力:陸奥賢さん)
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