クルーズはきらいだ。


小さな頃から、船上でのディナーとか、海外や旅先での小さなクルーズ、楽しいよって親がのせてくれたのだけど、なんというか、甘ったるさに耐えられなかった。


でも、漁師船に乗るのは好きだ。
 

父のふるさとが瀬戸内海の小さな島なので、よく、叔父さんの船に乗せてもらった。しゅぼ、しゅぼ、しゅぼ、ぽ、ぽ、ぽーっと船のエンジンが付く。走り出したら、生の風をびゅんびゅん感じて、海の上を進む。

うっかりしていると、麦わら帽子をおさえる手を忘れて、落っことしてしまう。だから、いつもはらはらしていた。海に針のついた糸を垂らして、びくん!と跳ねる魚を釣る。水槽の中に泳がせ、また、波をたてて海を走る。


砂浜にいると、いとこのお兄ちゃんが、にっと笑って貝をとってきてくれる。

「これおいしいよ、食べや~」

いつもは貝のグロテスクな見た目が苦手だけど、炭で焼いてくれるとぺろっと食べちゃう。


いまは、入院中の父。言うことをきかない体になり、到底無理なのにもかかわらず「ふるさとに帰りたい」とこぼす気持ち、うっすらとわかる。都会の方が便利だとか、長年住み慣れたとか、そんな脈略とは関係なく、ただ、あの海の風が体の中に住んでいるのだろう。





海で生まれた父の子であるわたしは、いつの間にか山の民になった。今や、仕事で東京に行くと、周りのビルをきょろきょろ眺めて確かめてしまう。「山はどこかな?」・・・無意識的に、だ。


いまの時代、人は自由に移動できる。
 

好きな場所に、好きな時に移動して、どの地域をどのくらいのバランスで取り入れるかまで配分できる。すごく助かる。


一方で、だんだん土地が自分の中にしみこんで、一部になってゆくことにも気付く。

たとえば今朝、目覚めた後、古民家の障子を開けて草の香りをかいだとき。

むわっとした土から這い出したような香りが、体の中に入ってくる。


強い。湿気がすごい。心地いいというよりも蒸されて、どろっとして、濃い緑。

心地悪さと、心地よさが、混じったような空気。


・・・


あの、いとこのお兄ちゃんからはいつも潮のにおいがしたように、山で暮らすわたしたちからは、ひょっとしたら草の香りがもれでているのかもしれない。


そんなことを思いながら、若葉の中にぽっと咲いた八重桜を摘む。花びらは、天然酵母パンの酵母にしようか、それとも眺めて楽しもうか・・・。 



今日も、山にはひっきりなしに、何かが起こっている。海にもひっきりなしに、何かが起こっている。愛おしい土地のかみさまは、時々、おどろおどろしい展開も起こす。


 

心地よさと、心地悪さをどちらも感じながら、土地からの解放と、土地との一体感をどちらも感じながら、そのスペースを借りて、 今日も、生きてる。


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